アートとは何か
今日は、アートなディスプレイとはどんなものか?についてお話しします。
商品を売らなければいけない商業の世界において、ディスプレイは広告そのもの。
絵や写真、彫刻やインスタレーションなどの美術作品は、そのものをアートとして売りますが、VMDの場合はディスプレイに使われている商品を売る、という宿命があります。
それが、VMDのディスプレイは商業ディスプレイである所以です。

もちろん、美術要素がないわけではありません。
上はデパート大丸のルイヴィトンのディスプレイですが、見事にアートが加わっています。

上は街で見かけた質屋のディスプレイ。
ルイヴィトンをただウインドウに置いただけになっています。
これでは、アートなディスプレイとは言えず、ウインドウは単なる物置きになっています。
物置きになっているディスプレイは通行人に見向きされません。
VMDのディスプレイはまずは通行人の目を向けさせなくてはいけません。
それにはVMDのディスプレイはアートでないといけないのです。
アートはWikiで次のように定義されています。
アートとは、表現者あるいは表現物と、鑑賞者が相互に作用し合うことなどで、精神的・感覚的な変動を得ようとする活動を表す。
商品を単に置くだけでは、それを見る人には、「ディスプレイされている」「展示されている」とは感じません。
単なるモノが転がっているだけです。
ところがモノにアートを加えると、「温かい」「格好いい」「シンプルだ」などと感じが見る人に沸き起こります。
つまり、ディスプレイの発信する視覚的な情報が、見る人の脳に変化を与え、何かを感じさせるわけなのです。
当然、何も感じないディスプレイは素通りされるでしょう。
この話はディスプレイだけでなく、常日頃から目にするすべてのもの、それがコップであれ眼鏡であれ、建物であれ、テレビCMであれ、何も感じないものは素通りされる運命にあります。

例えば新聞広告。
上はサボンの美しい広告。
デザイン要素である色や写真がとても映えています。
新聞をめくっていて思わず見入ってしまいました。
広告会社に長年勤めていた私は、常に素通りされない広告をつくってきました。
VMDも同じ。
VMDのつくるディスプレイは、VP,PP,IPといって店内や店頭につくられますが、これをお客様に素通りされるとツライわけです。
なので、私たちはいかに素通りさせずにお客様にディスプレイを見ていただけるか、常にアートを意識しながらディスプレイを組み立てているわけです。
自然と秩序の話
美術に関する文献でよく言われていることが、「アートは自然と秩序の中間がいい」ということ。

自然とは人間の手の入っていない状態をいいます。
例えば海や湖、森や高原など、すべてが自然と言えましょう。
秩序とは、ある法則に基づいた物事の状態を言います。
例えば、きれいに整理された庭は秩序そのものです。
芝生には花壇がつくられ、ヒマワリが等間隔に並べられています。
池はひょうたんに形どられ、その中にコイが泳いでいます。
ところが、家に人が住まなくなると秩序は乱れ、自然に帰ってしまいますす。
芝生はなくなり、雑草が生えヒマワリは絶え野生の花が咲き実が落ちます。
池は大量の落ち葉で覆われ、ひょうたんの形も消滅、水は泥で濁ってしまいます。
つまり、自然が幅を利かせてしまいます。

軽井沢の写真で言うと、上が自然の状態。
下は秩序ある状態です。

実はこれ軽井沢「星の」やの庭です。(^^)
星のやの中を流れる川ってアートになっていてなんかおもしろいです。
自然の川もいいけれど、このように人の手が加えられて秩序が感じられる川もよいです。
この観賞用の川は「楕円の島とゆるかやなせせらぎ」のリピートになっていて、お茶を飲んでいる私たちの癒しとなっていました。

このように、雑草生い茂った自然の川よりも、人の手が加えられた秩序感じるアートな川の方が落ち着く感じがするのです。
テイストとしては、「ゆったり」「ほっこり」「のびのび」という感じです。
ディスプレイ制作での自然と秩序のさじ加減
今度は売場塾のワークショップの写真を使って説明します。
「三角構成でコップのディスプレイつくって」と言って受講生にディスプレイ作っていただきました。
何もヒントを与えずにつくってもらうと、たいがい下のような形になります。


確かに三角構成なんですが、物足りない。
同じ方向で3色のコップを置き、シンメトリーに配置したコップは、三角構成としては問題ないんですが、アート性はあまり感じないです。
あまりにも「秩序」がありすぎて、アートらしさに欠けるんです。
この場合の「秩序」要素は、下記です。
- 三角構成がリピートしている
- コーヒーまたはジュースがテーマになっている
- シンメトリーに配置している


一方、こちらはどうでしょう。(上の写真)
あまりにも「自然」がありすぎて、やっぱりアートらしさは欠けています。
この場合の「自然」要素は下記です。
- コップの柄がバラバラ
- コップの素材やサイズもバラバラ
- 輪郭はずんぐりむっくり
この自然的なディスプレイと秩序的なディスプレイを比較してみましょう。
下写真を見てください。

いかがですか。
秩序があった方がよさそうな気がしますか?
でも秩序がありすぎると「四角四面」になってしまい、面白みに欠けます。
上写真の右は「三角三面」に面白みに欠ける、といっていいでしょう。
そこで、自然と秩序の中間の三角構成をつくってみました。
こちらです。

ほどよいアートな三角構成となっているのがわかります。
どこらへんがアートかというと下記です。
- 構造線がタテとヨコの2種類になっている。
- オレンジから緑のコップが飛び出していて動きを感じる。
- 伏せているコップと伏せていないコップを混ぜている。
つまり、変化があって楽しそうな三角構成になっているんです。
一見バラバラに見えるが、構造線を使った秩序が三角構成をアートにしているということです。
自然に秩序を加えよう
さて、まとめです。
今度は街中のディスプレイを見てみましょう。

このディスプレイ、なんかゴチャゴチャし過ぎてアート性感じないですよね。
先ほどお見せした軽井沢の自然みたいな感じです。
これ、ホノルル空港のお土産のディスプレイなんです。
このように自然が過ぎると、空き家が草や木で覆われ朽ち果てたようになってしまいます。
秩序があるホノルルのDSFのディスプレイの方がよいですよね。(下写真)


うーん、なんか自然すぎてバラバラに見えますね。
やっぱり雑草生い茂る軽井沢です。

星のやの人工川のように秩序を与えました。(上写真)
秩序である型は下記の通り。
- トライアングル(三角構成)
- リピテーション
- マスターパターン
- 面積
2は繰り返し構成という型です。
繰り返し展示することにより、リズミカルな印象を見る人に与えます。
3マスターパターンとは、黄金比率でお馴染みの型。
この場合は、下のインスタントコーヒーの高さを1とすると、上のインスタントコーヒーの高さは、1.618になっています。
つまり、コーヒー箱の上下が黄金比率に配置されています。
4.面積とは、群化の7つの法則のうちのひとつで、展示の周りに余白をつける型です。
余白はネガティブスペースといって、これがあると展示物は美しく目立ちます。
どうですか。
やっぱり自然と秩序の中間が心地よく、アート性もバツグンというのがわかったと思います。
自然すぎると、雑草ぼうぼうの深い森の中になってしまい、落ち着きません。
秩序過ぎると、四角四面で面白みのないものになってしまい、平凡です。
ディスプレイ制作を日々営んでいる皆さん、秩序と自然の中間を捉えてつくってくださいね。
すると、ディスプレイはアートになり、人々の目を捉えてくれます。
自然と秩序の備わったディスプレイをつくってみたい方は、ぜひディスプレイセミナーにお越しください。
半年に一度銀座で開催しています。
●ディスプレイセミナー
(VMDインストラクター協会事務局)